学者に情感は要らぬ

ある人が言った。

｢宗教を研究するのは結構だけどね、なぜ宗教は世俗を排除するくせにお布施を求めるんだろう、とか、道教なら、例えば仏教とは近い教えなのに何故両者の間に軋轢が起こるんだろうとか、もうちょっと年とったらそういうことも考えるようになってほしいな。


ああこいつ全然わかってねえな。
と思いながら、うちは答えた。

｢当然のことでしょう、お布施がいるのも軋轢が起こるのも。布教する側だって生身の人間なんだからゴハン食べなきゃ生きていけないし、それには信者が必要でしょ？だから外部の宗教と接した時には教えに関わらず団体としての｢○○教｣に帰依してくれる信者を獲得し続けなきゃいけない。あなたは宗教を理想化し過ぎています。


ある人は答えた。

｢いやそうなんだけども、そういう理屈ではなくてね、しみじみ思うようになるんだよ年齢を刻むと。あなたもそういうことを考えるようになってほしいのよ。


なるほど人はこうして、年を重ねる毎に論理的な思考力を失っていくのか。

｢なるほどそうですか。貴重なお話をありがとうございます｣

うちは心にもないことを言い、その場を後にした。

情感を獲得することと理論性を失うこととは紙一重だ。両者の間にそんな対立がおこるのは、時間の消費の仕方が違うからだろうか。
前者なら｢浸る｣、後者なら｢考える｣といったところか。

浸るのは頭使わなくてもできるから楽だ。メシを食う宛ても安定して、時間の過ごし方に慣れてしまうと、エネルギーを消費しない楽なほうへと流れていく。そのほうが多くの快楽を産出できるというなら、それで正しい。

だけど浸るのはその時だけで終わりだ。生産性がない。そして、生産しないヤツとは｢議論｣する価値がない。
学問の畑にあるものは須く、｢もののあはれ｣など解さぬ幼い子供のように、ことあるごとに｢なんで、なんで｣と尋ねて大人たちを困らせる、そんな精神を失ってはならぬと、つくづく思う。